テアゲロthetwins-12-
た、ただいま〜。
有岡は、わざと明るい声で家の中に呼びかける。
二人が玄関に入ると、白い割烹着姿の女が現れる。
お帰りなさい。お腹空いたでしょ?
こちらは?
女が訝しそうに大野を見る。
大野がにこやかに笑って一礼すると、有岡が女に向かって大野を紹介する。
こ、こちら、大野さん。今付き合ってる人です!
女がびっくりして目を見開くと、同じように大野も目を見開いて有岡を見る。
有岡は、薄ら笑いを浮かべ、大野に合わせてくださいと目で訴える。
大貴まさか。
ごめん、母さん。俺、どうもそっち系らしい。
だ、大貴。
女が倒れそうになるのを、大野がすかさず支える。
あ。
大野に抱きとめられ、目が合うと、女の顔がポッと染まる。
大丈夫ですか?
ははぁ。
女は息を吐いて、大野を見上げる。
本当に?
女の問いに大野が答えられないでいると、女は大野から体を起こし、
立ち上がって、大野を見つめる。
家に帰るのが嫌でこの子に頼まれたんじゃありませんか?
女の言葉に、二人してギクッとする。
さすが母親だ。
息子のことがよくわかっている。
すみません。
大野は手を前で組んで、穏やかな調子で言う。
大貴さんとお付き合いさせて頂いています。
どうか、許してください。
深く頭を下げると、大貴も合わせて頭を下げる。
女の深い溜め息が聞こえ、二人が顔を上げると、眉間に皺を寄せた女が言う。
まずは、ご飯を食べましょう。いらっしゃい。
女が先に立って戻って行くと、大貴は大野に向かって、
申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせる。
仕方ねぇななんとかしろよ?
大野はおおげさに靴を脱ぐ。
ありがとうございます。
有岡も慌てて靴を脱ぎ、大野を連れ立って中に入って行く。
ダイニングのテーブルの上には、贅沢ではないが、美味しそうな料理が並べられている。
山菜のてんぷら、カボチャの煮もの、魚の甘露煮。
大貴の好きな炊き込みご飯にしたのよ。ほら、持ってって。
有岡は言われるままに、茶碗によそわれた炊き込みご飯をテーブルに運ぶ。
あ、大野さん、母の菊代です。たぶん、後で親戚が何人か来ると思うので。
有岡は、大野に座るよう促し、自分はいそいそと菊代を手伝う。
親戚の方もいらっしゃるんですか?
大野は菊代に声を掛ける。
ええ、大貴が来ると言ってあるから、たぶん。
それにもうすぐ祭りだし。
お祭り。
そう、祭りはこの村にとっては大きな行事。
大貴今年はあんたも参加しなさいよ。
さ、参加って。
大貴がビクビクしながら、うどんの入ったお椀を大野の前に置く。
安心しなさい。あんたにお父さんの代わりは任せないわよ。
叔父さんがやってくれるから大丈夫。
お父様は神主さんだと伺ってますが。
大野は、有岡がこぼしそうになるお椀を受け取り、菊代の席と思しき席に置く。
そうなの。ウチは代。でも、それももう終わりね。
い、いや!
有岡が菊代の肩に手を掛ける。
叔父さんが見つかったから。
叔父さんて誠さん?
うん。
有岡が大きくうなずく。
まさかどうやって。
それは。
有岡がチラッと大野を見る。
探偵を雇って探してもらったんです。
叔父さんは見つかりましたが、まだちゃんと話はしていません。
その前にこちらに来てしまったので。
そうだったのね。急がせて悪かったわね。
菊代は、醤油さしをテーブルに置き、席に着く。
それを見計らって、有岡も大野の隣に座る。
では、いただきましょう。
菊代が両手を合わせて、食べ始めると、有岡と大野も小さく頂きますを言う。
大野さん、これ、母さんのこれ、絶品だから。食べて食べて。
そう言って、有岡は山菜のてんぷらを大野に勧める。
大野も勧められたてんぷらを口に運び、旨い!と声を上げる。
大貴。
ん?
菊代は口をもぐもぐしながら、二人を見比べる。
あんた、見る目だけはあるのねぇ。
菊代は小さく溜め息をつく。
あんたが女ならねぇ。
大野を見つめ、はぁとまた溜め息をついた。